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ストーリー

いのちキラキラ希望の風フェスタ
一緒にいられる場所をつくり続けて

2011年3月11日、東日本大震災が 発生しました。その時、私は広島市に仕 事のために滞在しており、映画でも見てい るかのような知人宅のテレビの映像に、 言葉を失い体が震え続けたことを、今で も鮮明に覚えています。 そして続けて起こった原発事故。しかし、当時の私は、そ の事故がもたらす影響についてはよくわかっていなかったと思います。 

 

看護師としての経験を生かして新潟市で自然療法を生業としていた私は、普段 から仕事を通して福島県や宮城県の方々 と交流があり、電源が確保できた方々か ら次々に状況を伝えるメッセージが届きま した。 「夜眠れません」「振動があるだけで子 どもがパニックになります」 「おねしょが 戻ってしまいました」「口内炎が一度に7 つもできました」「鼻血がよく出るんです けど、原発事故の影響ですか?」「お米を 食べてもいいですか?」「野菜を買っても いいですか?」「炭がいいって本当ですか?」 「玄米を食べたほうがいいんですか?」 

 そんな質問に、どう答えたらいいのかわ からないまま、とにかく福島の方々に会っ 直接お話をして、

体を看させていただきたくて、愛媛から取り寄せた無農薬 EM農法の野菜や、竹炭、安心な果物な どを車にぎゅうぎゅうに詰め込んで、福島県に向かう日々が始まりました。 

 

震災後初めて福島県に入ったのが3月2日。お野菜を渡して、状況を聴いて、 必要なものを確認して、泣きながら抱き 合って、また会うことを約束して帰ってく る。そのうち会津若松市、郡山市、福島市、 川俣町に拠点を設けていただき、お野菜 などを運んでは現地の方々と交流できる ようになりました。 

 そんな折、環境活動家の田中優さんが 新潟に来て、福島原発事故で何が起こっ たのか、そして放射能被ばくによる体への 影響の可能性について、詳しくわかりやす く講義してくださり、当時の「健康には 直ちに影響がない」という、いわゆる安全 説に染まりつつあった福島県の状況に不 安を覚えました。 

お母さんたちにお声がけして集まってい ただき、優さんの講演録画を観て一緒に勉 強することも、福島県での活動の大切なひとつになっていきました。 

 

そんな活動を約1年続けた頃、福島の 発達障害のお子さんからお手紙をいただ きました。 便箋には一言、力強い大きな文 字で「いてくれてありがとう」と書いてあ りました。 

 

実はその頃の私は、心が折れそうな日々 でした。福島県に野菜を届けること、勉強会を続けることを、「ネガティブキャンペ ーン」だと言われたこともありました。 「ただ承認欲求を満たしたいだけなのでは」とか「売名行為ではないか」との声も間接的に聞こえてきたりしました。さらに は、福島県内の方からも「もう支援は必 要ないです。子どもたちはわかって生まれて来ているはずなので、たとえ命の時間が 短くなっても、心配しないで福島で生きる ことを選ばせたいのです」と言われたこと もありました。 

一方では、本当のことを知りたい、ちゃ んと学びたい、信頼できる医療者と繋がりたい、子どもの未来を守りたい、胸の内を話したい、怒りの感情も、悲しみの 感情も言葉に出して涙を流したい、そして本当なら国を信じて、県を信じて、人 を信じて、希望を描いて、それに向かって 生きていきたい、でも誰を信じたらいいの か、どこへ行ったらいいのかわからない、 そんな方々もたくさんいらっしゃいました。 その狭間で、様々な感情を抱えていた 時にもらった「いてくれてありがとう」。 そうか、何かをしてあげるとか、解決し てあげるとか、誰かを説得するとか、世 の中を変えるとか、そんなことじゃなくて、 「一緒にいられる場所を作ること」ならで きるかもしれない! そう思えました。 

この想いに共感してくれた仲間達と立 ち上げたのが「いのちキラキラ希望の風フ ェ スタ.m笹神」という保養活動です。 

 

初回は2012年6月。その後、毎年、 春と秋の2回、自然豊かな五頭連峰少年 自然の家 (阿賀野市)での1泊2日で開催を続け、これまで延べ約700名の方々 に参加していただき、今年の秋で第13回 目を迎えます。 

 

通称「風フェス」は、現在8名の医師 を含む約100名のボランティアスタッフ を抱えるチームになりました。職業も、 性別も、年齢も様々な彩り豊かなチーム です。 さらに日本各地から、風フェス開催 に合わせて、安心な果物、お米、お野菜、 手作り無添加おやつなどが応援として送 られてきます。 

ひとりができることは小さくても、心 と力を合わせれば、やりたいことを可能 にする力を生み出せることを、私自身、 学ばせていただきながら、7年間継続し ています。 

 

スタッフが息を合わせることのできてい る理由の1つに、事前交流があります。  

ボランティアを申し出てくださった方には 可能な限り共同代表の2人が直接会って、 これまでの経緯や、福島県の現状などを お話しし、そして約1時間の放射能の勉強会に参加していただき、その上で参加 をするかどうかを決めていただいています。 

 

この方法は、参加のハードルを上げてし まうのではないかと心配されることもある のですが、結果的に情報や知識の共有を した上で集えるので、方向性にズレが生 じにくく、スタッフをやめられる方も圧倒 的に少ないのです。 

 

風フェスは3つの柱を大切にしています。

 

① 心と体の健康を支える

内科医、精神 科医、眼科医、看護師による健康相談や、 心電図、甲状腺エコー検査、歯科検診、 尿検査を行って、現在の健康状況を一緒に 把握し、必要があれば医療機関の紹介を 行います。 

 

②心と体の癒しに寄り添う

 鍼灸、整体、マッサージ、こんにゃく湿布などによる手 当や、体に優しい食事を手作りで提供し ます。 食事で使う調味料にもこだわりま す。 体を温めるお 茶や、家庭で作れ る酵素飲料の試飲 やレシピもお渡ししています。 子どもたちは、天気が良け れば近くの川で遊んだり、広場で思いっき り体を動かす運動教室なども開催します。

 

③心と体の免疫力について共に学び、守る:

お味噌作り、茜染、薬膳がゆづくり のワークショップなどを開催し、帰宅して も続けられる養生の方法について体験して いただきます。また、親子整体教室や、 季節に合う養生法の勉強会で共に学んで います。 

 

そして、開催のたびに突きつけられるの です。もし、新潟県刈羽原発で同じこと が起こったら、住み慣れた家や、やりがいのある仕事や、友達や、思い出を捨てて、 避難に踏み切れるだろうか。 放射線の影 響を心配しながら暮らせるだろうか。 安 全を気にしながら毎日料理を作り続けられるだろうか。 

だから風フェスの活動は、受け入れる というよりは一緒に過ごす。 教えてあげる のではなくて共に学ぶ。 そして一緒に助かって行く道を、希望を持って探し続けると いう姿勢で行なっています。 

医師でさえ、原発事故による健康被害 に向き合うのは初めての経験です。 風フェスの医師団は、既存の知識にこだわらず、 共に学び、いつも放射能の影響を視野に 入れながら心と体を支えてくださいます。 「ひとりでも、来ることを望んでいる方 がいるなら、開催しましょう!」。風フェスの仲間達からもらった言葉です。 日本 各地の保養活動が減っていっても、参加してくださる方が減っていっても、何年たっ ても、必要がある限り、私たちは「ここにいる」。 

 

第14回に向けて準備が始まりました。 今回はどんなご縁が風フェスで紡げるの か、そしてどんな学びや成長を共有できるのか、どんな想いを伝えあえるのか、そ こに希望を繋いでいけるようみんなで話し 合いを重ねています。 繰り返し来てくださ る方々には「お帰りなさい!」と、そして 新たに来てくださる方々には「来てくれ てありがとう!」と、笑顔でお迎えしたい と思います。 最後にこの場をお借りして、 これまで繋がってくださった全ての方に、 これから繋がってくださる全ての方に。 「いてくれて、ありがとう」 

 

いのうえ まゆみ 

いのちキラキラ希望の風フェスタin笹神共同代表

MIBELCAREセンターマリーゴールド主宰 看護師、看護教員、ベビーマッサージ教室立ち上げを 経て現在はホメオパシー療法を中心に、健康に関す る勉強会、生きることと死ぬことについて向き合う 死生観のセミナーなどを各地で行なっている。他、一 般社団法人日本看取り士会認定看取り士一般社団 法人日本グリーフ専門士協会認定グリーフ専門士 

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